毎年お盆の季節にはお盆休みがあって、親戚が集まっての田舎の墓参りは慣例となっています。毎年帰省ラッシュが報じられますが、しかし帰省の目的は年々変化してきています。「親の顔を見に」「孫の顔を見せに」行くのであって、「お盆に浄土から家に帰るご先祖様の供養のため」と意識しているひとは減ってきています。「初盆を迎える」新しい霊がおいでになる場合、初めてお盆の意味を知るということも多いでしょう。ご先祖様の祭祀を受け継ぐ人も、そのことについてあえて説明するということもないし、お経を上げに来た和尚様がその場で説法するということもないですしね。
このところ墓じまいをする人が多くなっているというニュースを受け、お墓の果たしてきた役割と、「お墓をどうするか」今後の選択肢について調べていきましょう。
目次 Contents
お盆の祭祀のやりかた
お盆の祭祀については、地方により、宗派により異なるところもあるでしょう。今回は臨済宗を継ぐ長男の家に育ち、浄土宗を受け継ぐ家に嫁いだ筆者の体験談を中心に書いていきます。
■お施餓鬼(せがき)
実家も婚家もお盆に入る二日前ほどに、お寺で施餓鬼法要が行われます。お施餓鬼とは、無縁仏となったり、おなかをすかせて餓鬼となった霊に対しても同時に供養し、ご先祖様の徳積みとすることだといわれています。
本来の目的は、ご先祖様の戒名など手書きされたお塔婆(とうば)をいただきに檀家になっているお寺に上がります。
婚家ではお塔婆をいただくと、お盆の間仏壇に飾り、送り火を行うときにお寺の石塔に納めますが、実家ではお塔婆をお墓に立てかけて置かれています。
■卒塔婆(そつとうば)とは
お塔婆とは卒塔婆(そつとうば)の略式名です。上部をハスの断面のように切り取ってある白木の板に戒名など書かれたものです。
仏教の発祥した古代インドで、涅槃(ねはん)に入った仏陀の遺骨(仏舎利、ぶっしゃり)を納めた塔のことをストゥーパといいます。仏教が中国に入った時にストゥーパが卒塔婆となり、日本へも伝わったのです。仏舎利を納めたものが五重塔の起源だそうです。五重塔は五輪塔となり、五輪塔を模したものが現在まで伝わるお塔婆なのですね。「仏となったご先祖様の舎利がやどる依代(よりしろ)」がお塔婆だということでしょう。依代にご先祖様の霊が宿り、お盆に家に帰ってくるということを目に見える形にしたものだといえます。
というわけで、お塔婆はご先祖様の魂であり、お盆にあわせて行う施餓鬼法要の時にこの世に帰り、送り火をもってあの世に帰っていくのですね。
■仏壇とお墓の違い
施餓鬼供養の際にいただいたお塔婆を実家ではお墓に置き、婚家では仏壇に置きます。実家も婚家も先代、先々代と連綿と引き継がれるまま慣習として行われてきたことですが、どちらが正しい扱いなのでしょうか?
・お墓の意味
亡くなった方の遺骨を納め、魂入れ儀式をしているご先祖様の「家」とも言えます。中国では「陰宅(いんたく)」ともいわれ、陰宅風水は、家族が暮らす陽宅風水よりも重要視するともいわれるほどに大切に扱われています。
・仏壇の意味
仏壇の中央部には、阿弥陀如来などのご本尊が鎮座します。そしてご先祖様の位牌が飾られています。神棚が家庭用の神社であるように、仏壇は我が家のご先祖様を祀るお寺なのですね。位牌にはご先祖様の魂が宿ると言われているのに、似たような意味の塔婆をいただくのはなぜなのでしょう。仏壇はお寺、位牌はご先祖様の家、卒塔婆は魂だと考えればスッキリします。本来自由自在な魂であるご先祖様が、ずっと家にいるわけではないからでしょう。仏壇=家庭用のお寺、位牌=ご先祖様の家である家庭用お墓であり、お塔婆は魂という事です。だから、お墓にお塔婆を飾る実家のやり方も、仏壇にお塔婆を飾る婚家のやり方も間違いではないということになります。
ただ、そこに一つ合理的でないと考えられる理由が発生します。
「家庭用のお寺とお墓が家にあるならば、お寺さんは必要ない。檀家を抜けても問題ない」と考えるひとが出てきそうです。家のお寺と本山の違いは、修行を積んだ徳の高い、供養専門のお寺のお坊さんに供養してもらった方が、より善く徳積できるということでしょう。それは間違いないでしょうね。曲りなりも供養のプロである事は確かです。徳が高いかどうかは別の問題です。実家も婚家も基本的には同じ考えでお盆の祭祀が引き継がれています。
檀家ばなれがおきる件、檀家の離れ方
最近の一般家庭では殆どが家族葬になっています。叔父叔母、親戚でも家族葬が増え、小さいころ遊んでもらった故人に別れを告げられないということもあります。そんな中での親戚のお葬式の際に葬儀の供養を上げてくださる檀家の僧侶に頼んだところ「最低3人呼んでもらうことになっています」ということがありちょっとしたトラブルになったと聞きました。長く病院にいて年齢も大きい老妻を、一人の祖された老夫が、身内だけでしめやかに葬儀を行いたいという意向をお寺に伝えても、決まりだからと一人のお経では済まされなかったのです。
葬儀に僧侶を5人も7人も呼ぶ家が少なくなってきた現在、「近隣の三つのお寺が結託してそんなきまりを押し付けてきた」と地域ではささやかれていました。大業な供養を無理強いし、大枚を老人から奪う僧侶はひんしゅくを買ったのですが、だからと言って檀家を止めるわけにもいかず「僧侶のいわれるまま、なすがまま」の状態なのです。そんなお寺、檀家を止めてまえ!という声もあがりました。
■檀家制度とは
『世界大百科事典』によれば檀家とは、お寺にお墓の管理を任せる代わりに、お布施などをして経済的に支援する家の事で、檀家になっているお寺の事を菩提寺と言います。江戸時代に、全ての人間が寺の檀家となり、戸籍管理を寺が請け負った「寺請制度」がその源流です。
檀家の語源は、古代インドで使われていたサンスクリット語の「ダーナパティ」から転じた言葉と言われており、庇護者・施す者という意味があります。
特定の寺院と永続的に葬祭の関係を結び,布施を行ってその寺院の護持にあたる家。寺僧を供養するという意味のサンスクリットのダーナパティdānapatiの音写である檀那、檀越(だんおつ)に語源をもつ。これらが個人的な師檀の関係であるのに対して、家として関係を結ぶものを檀家と呼んで区別する。公家や武家が家の菩提寺をもったことに始まり、近世初頭に小家族形態の近世的な〈家〉が広範に成立すると、それらの集合菩提寺が生まれ、両者の関係が永続的に固定化して、檀家が一般的に成立した。
■檀家をやめるには
1.菩提寺に檀家から退くという旨を伝える
地域の世帯で一つの菩提寺を維持していくという江戸時代からの慣習で家が檀家になっている菩提寺には、檀家のリストがあり、1周忌、3回忌などに法要のお知らせが届きます。最近は年期法要も省略傾向にあり、菩提寺を維持する檀家が減ることには難色を示すことでしょう。が、引っ越し等やむを得ない場合はしかたがありません。
ただ、お墓をそのまま残して檀家であることから退くことは認められにくいかもしれません。つまり、檀家を退くということは代々のお墓じまいをし、家の祭祀のあり方全体を仕切りなおすという事でもあります。
菩提寺との話し合いで檀家から退くことが決定した場合は、離檀料10万円~20万円を支払い、お寺が管理しているお墓を仕舞う場合は、お寺のきまりに従って引き払います。
離檀料については檀家のきまりに基本的には従いますが、あまりに高額な離檀料を請求された場合は、弁護士に相談するなどして対抗措置をとる必要が出る場合も全くないとは言えません。
2.墓じまいをする
墓じまいをする場合には、市町村に届け出をし、改葬許可証を発行してもらう必要があります。改葬許可申請を怠った場合罰金刑が処されますので注意が必要です。
・墓じまいのメリット
大学時代から親元を離れて、そのまま大学のある土地で就職してしまった場合、実家のある土地にお墓や仏壇があっても祭祀の継続がなかなか大変になってきます。実家の親が亡くなり、兄弟もいないというようなケースではやはり住居がある土地へお墓や仏壇を引っ越しすることが合理的とも言えます。
お墓の維持にかかる費用は、お墓の管理規約・使用細則のなかで契約している内容で、最初に支払う「永代使用料」、一年ごとに支払う「年間管理費」、ひと月ごとに行う「月忌法要」などになっており毎年の負担はバカになりません。家に仏壇があり位牌があるという場合、墓じまいをすることで心理的負担も軽減できることメリットでしょう。
・墓じまいのデメリット
では墓じまいのデメリットはあるのでしょうか。
現在は人が亡くなると火葬され、遺骨をお墓に納めます。遺族はお墓に行けば亡くなった家族をとても身近に感じることができるでしょう。お墓には何人かの家族の遺骨を納めることもあります。昔のお墓は、墓石を担いでとり、掘った土地の中に骨壺を納めてました。お墓は遺骨を納める陰宅だったのです。お墓を持たないということは、自分がよって立っていた土台であるご先祖様の”家””居場所”がなくなってしまうという事とも言えます。ルーツを辿るモノが一つなくなるのはデメリットと言えます。
「私はお墓になんかいません」
おそらくは死んだら誰もがそう言うでしょうけれども、樹木葬にしても、海に散骨してもきっと遺族は遺骨と別れたところに向かって思いを手向けるだろうと思うのです。故人と向き合いたいときはお墓に行って報告等するというシーンをドラマでもよく見ますが、墓じまいは故人との拠り所をなくすということでもあります。
故人とつながっていたのは祭祀者だけではないという認識は必要です。祭祀を行う人が墓じまいを決める権利を持っていますが、故人と縁のあった旧知の友、教え子、世話を受けた人々にとって故人と、誰に気兼ねすることなく会える場は「お墓」であるということです。そういう縁者すべてと墓じまいについて相談することは不可能ですが、せめて近い親戚とはよく話し合って墓じまいをすることで、トラブルを回避することができます。
・墓じまいの手順
1.お墓の中に納められているお骨が誰にモノか、いくつあるかを把握する。2.墓じまいのあと、お骨の行き場所を決める。
全国石製品協同組合(以下 全石協)が以下の概要でおこなったアンケートを転記しておきます。
【調査対象】 ”墓じまい”をした人、全国30才以上~ 男女
【調査期間】 2018年6月1日~2018年6月30日
【調査方法】 インターネット調査
【有効サンプル数】 141人新しいお墓を建てて納骨(42.3%)
納骨堂(16.1%)
永代供養墓(14.6%)
既にある別のお墓に移動(10.2%)
海洋散骨(6.6%)
自宅・実家に安置(5.8%)
樹木葬(4.8%)※母数が少なく、他のアンケート結果と比較してもバラツキ感は否めません。時代の変わり目の迷いを感じさせる結果だと思います。
3.祭祀継承者が、親類の意見をまとめる。
故人の住処であるお墓を仕舞う事は、祭祀継承者だけの問題ではなく、故人の近親者が生存している場合は相談してまとめるべきです。そうでない場合トラブルの元となりやすいです。できれば書面にしておくと確実です。4.市町村に届け出をし、改葬許可証を発行してもらう
改葬許可申請を怠った場合罰金刑が処されます。5.お墓を撤去する業者を決める。
墓石、石材店にお墓の撤去見積もりを依頼します。必ず2社以上に、合い見積もりであることを断って見積もりを行いましょう。適正価格を知るためには合い見積もりが必要です。高額になる場合は解体業者に依頼する方法もありますが、専門業者ではないので近隣墓石の破損、お骨の処理に不備が起きる、墓石の処理など不備が生じた場合の処理を依頼者が責任をもって行う必要があります。具体的にどのような工程で行われるか、契約内容についての確認は必須です。
・墓じまいの費用
墓じまいの費用として以下の費用が掛かります。
〇離檀料 10万円程度
〇墓石の撤去費用 10万円~
〇遺骨処理費・・・合葬墓3万円~、納骨堂10万円~約100万円、樹木葬4万円~墓じまいには以上を合計して30万円~程が必要となります。
3.墓じまいした後、祭祀をどうするかを決めておく
墓じまいしたら、お墓に納めていたこれまでの遺骨やご先祖様の「家」をどうするのか考えておかなくてはなりませんね。方法としては
〇永代供養墓
〇合葬墓地
〇散骨
〇樹木葬
など多様なお墓のあり方が考えられます。故人が親など近親者である場合よりも「先祖代々の墓」を守る立場としては、なかなか難しい選択ではありますね。
1周忌、3回忌、7回忌、13回忌・・・50回忌と続く法要を忘れず連絡をくれる菩提寺の存在は、法要を営むか否かは別として「ああ、もう3年たったのか」などと故人を思い出す良い機会ではあります。そうでもなければ日常の忙しさに、命日すら忘れて過ごしてしまいそうですから。
冠婚葬祭が簡略化傾向にありますが、古き時代の重厚な葬送や法事などを、今の自分に営むことは無理だなと感じつつも、一方でそれぞれいいところも多っかたと「参列者」としては感じているところもあります。
祭祀を継ぐ立場として、100年後を考えてみる
筆者自身、配偶者も「自分の葬儀などは一番簡単なものでいいし、海へ散骨してくれて一向にかまわない」と考えています。
しかし、お仏壇に飾られたご先祖様の名が連なる位牌をどうするのか。代々引き継がれてきたお墓はどうするのか、と考ればなかなか選択するには難しいものがあります。
ひと世代前なら考えもしなかったであろう「墓じまい」や「離檀する」などという選択肢が話題にも上ります。
祖父の葬送は実家で営まれました。親戚だけでなく町の共同体全員が葬儀にかかわり、重厚な葬儀が行われました。町の共同体は葬儀だけでなく家の建前(上棟)のときにも活躍していました。いま、昔のような葬儀ができないのは、隣組が葬儀にかかわらなくなったことと無関係ではないと思います。核家族化が進んだ結果「家族葬」が定着しつつあることは当たり前ともいえます。なんだかんだ費用も手間も暇もかかる法要などの祭祀にしても、世帯の単身化が進む世の中では簡略化されるのを止められないのでしょうね。
ただ、ルーツを途切れさせることには抵抗を感じます。ルーツが人の軸を立てていくと考えるからです。500年前のご先祖様と今の自分と、そして100年後の子孫をつなげられるものは何でしょう。その一つが「家系図」なのではないでしょうか。実家にはある家系図。婚家のものもつくってみると面白いかも、と思ったりします。
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